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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)1049号 判決

第一事件原告

西脇美穂

同事件原告

西脇辰夫

同事件原告

西脇代

第二事件原告

河野昇平

同事件原告

河野健志

同事件原告

河野美代子

右原告六名訴訟代理人弁護士

木梨芳繁

第三事件原告

安倍徹

同事件原告

安倍治雄

同事件原告

安倍瓊子

右原告三名訴訟代理人弁護士

椛島敏雅

田中久敏

第一ないし第三事件被告

福岡県

右代表者知事

奥田八二

右訴訟代理人弁護士

国府敏男

山田敦生

主文

一  被告は、第一事件原告西脇美穂に対し、金一九四六万四七八二円及びこれに対する昭和五四年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、第二事件原告河野昇平に対し、金二七万四四五一円及びこれに対する昭和五四年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、第三事件原告安倍徹に対し、金二三二万三七一七円及びこれに対する昭和五四年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  第一事件原告西脇美穂、第二事件原告河野昇平、第三事件原告安倍徹のその余の請求をいずれも棄却する。

五  第一事件原告西脇辰夫及び同西脇代、第二事件原告河野健志及び同河野美代子、第三事件原告安倍治雄及び同安倍瓊子の各請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用については、その一五パーセントを被告の、その五パーセントを第一事件原告西脇美穂の各負担とし、その余を第一事件原告西脇辰夫、同代、第二事件原告河野昇平、同健志、同美代子、第三事件原告安倍徹、同安倍治雄、同安倍瓊子の各負担とする。

七  この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(第一事件)

1 被告は、第一事件原告西脇美穂に対し金五〇二二万二八七五円、同西脇辰夫及び同西脇代に対し各金五五〇万円、並びにこれらに対する昭和五四年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(第二事件)

1 被告は、原告河野昇平に対し金五九九六万八五八〇円、同河野健志及び同河野美代子に対し各金五五〇万円、並びにこれらに対する昭和五四年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(第三事件)

1 被告は、原告安倍徹に対し金五五七四万八五二五円、同安倍治雄及び同安倍瓊子に対し各金二七五万円、並びにこれらに対する昭和五四年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  第一ないし第三事件原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は右原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者らの地位)

昭和五四年五月一三日当時、第一事件原告西脇美穂(昭和三七年六月一五日生、以下「原告美穂」という。)及び第三事件原告安倍徹(昭和三七年四月九日生、以下「原告徹」という。)は、被告の設置する福岡県立筑紫丘高等学校(以下「筑紫丘高校」という。)二年に、第二事件原告河野昇平(昭和三六年一一月二七日生、以下「原告昇平」という。)は同校三年に在学中であり、いずれも同校化学部(以下「化学部」という。)に入部していた。

第一事件原告西脇辰夫及び同西脇代(以下「原告辰夫」及び「同代」という。)は原告美穂の、第二事件原告河野健志及び同河野美代子(以下「原告健志」及び「同美代子」という。)は原告昇平の、第三事件原告安倍治雄及び同安倍瓊子(以下「原告治雄」及び「同瓊子」という。)は原告徹の、いずれも両親である。

2  (事故の発生)

昭和五四年五月一三日午後三時すぎ頃、筑紫丘高校主催の文化祭において、化学部により、模擬火山噴火噴煙の公開実験(以下「本件実験」という。)が行なわれたが、その際原告昇平が黒色火薬、テルミット、ピクリン酸等の薬品を同校化学教室前中庭に土盛りして設置された模擬火山(直径約二メートル、高さ約八〇センチメートルの富士山型)の火口(直径約一〇センチメートル、深さ約一三センチメートル)に注入を開始したところ、突然右模擬火山が爆発し、そのため、原告昇平や右実験現場付近にいた原告美穂及び同徹らは爆風で吹きとばされ、これにより、原告美穂は、右眼無眼球、左眼後極部網脈絡膜萎縮、隅角解離の傷害を、原告昇平は、顔面骨折、頸部火傷、左前腕・上腕爆傷、右眼強角膜裂傷、左眼無眼球傷の傷害を、原告徹は、顔面第Ⅱ度火傷、左大腿挫創、両眼角膜結膜異物、角膜結膜腐蝕、前房出血、隅角離断、左眼脈絡膜破裂、右眼緑内障の傷害を、それぞれ負つた。

3  (被告の責任)

右事故の発生については、被告の使用する地方公務員たる筑紫丘高校長富久亀男(以下「富久校長」という。)及び同校の化学担当教員で化学部顧問であつた辻悟教諭(以下「辻教諭」という。)に、その職務を行うにつき、以下の過失があつた。

(一) 辻教諭の過失

(1) 本件実験を中止するよう指導しなかつた過失

本件事故当時は雨模様であつたから、このような状況の下で模擬火山噴火噴煙実験を行なえば、水分と化学薬品が反応して危険な結果が発生する蓋然性が高まつていたものである。

そうすると、辻教諭は、右のような状況の下では本件実験を中止させるべき注意義務があつたのに、筑紫丘高校二年生で化学部長の小川博生(以下「小川部長」という。)に対し、最後の実験と思つて薬品の量を増やすなどしないよう注意するのみで右実験を中止させる措置をとらなかつた。

(2) 黒色火薬等を使用しないよう指導しなかつた過失

黒色火薬は、加熱や衝撃によつて容易に爆発する危険性があり、しかもその爆発の威力は極めて強大であるから、火薬類取締法二三条二項、二条一項一号イの規定からも明らかなように、辻教諭には一八歳未満の者である生徒らにこれを取扱わせてはならない注意義務がある。なお、ピクリン酸も同様である(同法二三条二項、二条一項二号ホ)。

しかして、同教諭は、文化祭における化学部の催物について、昭和五四年四月中旬に化学実験室の黒板に実験テーマと責任者を書かせ、実態を把握していたこと、小川部長に対し、本件実験は、炎や煙が出るので校庭で実施し、かつ危険だから見物人が近寄れないように柵をつくり、消火器を用意しておくよう注意していること、文化祭の四、五日前に小川部長が黒色火薬の組成物であるSとKCL3と記入している薬品購入用紙を持つてきた際、その購入を許可していること等の事実からすれば、生徒らが本件実験に際し、黒色火薬等を用いることを予見していたか、又は少なくとも予見しうべきであつた。

しかるに、辻教諭は、本件実験及び文化祭前日の五月一一日に行なわれた予備実験に立会もせず、また前記のように小川部長が薬品購入許可方を求めてきた際、漫然これを許可したため、本件実験に多量の黒色火薬等が使用されることを確知しえず、従つて、その使用を止めることをしなかつた。

(二) 富久校長の過失

富久校長は、学校管理者として、文化祭に当り、化学部顧問教諭に対し、公開実験のうち危険と思料される実験については十分注意して実施するよう指導監督すべき職務上の義務があるのに、これを怠つたうえ、昭和五四年四月に化学部顧問に就任したばかりの辻教諭に対し、前任者との実験指導上の引継を十分に行なわせることもしなかつた。

(三) 右のとおり、本件事故は辻教諭及び富久校長の職務上の過失によつて生じたものであるから、被告は、国家賠償法一条一項により原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

4  (原告らの損害)

(一) 原告美穂

(1) 入院雑費

原告美穂は、本件事故による傷害の治療のため、昭和五四年五月一三日から同年六月一九日まで三九日間九州大学附属病院(以下「九大附属病院」という。)において入院加療を受けたが、その間の入院雑費は、一日につき金一〇〇〇円が相当であるので合計金三万九〇〇〇円となる。

(2) 付添看護費

原告美穂の右入院中原告代が付添看護を続け、その間の費用は、一日につき二八〇〇円が相当であるので合計金一〇万九二〇〇円となる。

(3) 付添看護のための交通費

原告辰夫は、同美穂の入院後一五日間については、その病状がひどく夜を徹して付添看護に当る必要があつたため昼間の付添看護を原告代と交替せざるを得ず、同辰夫のそのための交通費として一日当り片道金七二〇円で一五日間合計金二万一六〇〇円を要した。

(4) 盲学校通学交通費等

原告美穂は、社会復帰のため昭和五四年九月一日より福岡県立福岡盲学校に入学し、入学と同時に同校の寮に入寮し、同校の方針により毎週土曜から日曜にかけて自宅に外泊する生活を続けていた。帰宅のための交通費は一往復三八〇円であり、同校を卒業する昭和五七年三月までに一三〇週分合計金四万九四〇〇円を要した。また、同原告が帰宅する際には必ず原告代か同辰夫が付添つていなければならず、更には、寮の食事が週に一回はカレーライスの献立となつていたところ、原告美穂は医師から香辛料等の刺激物を食べることを制限されていたため、カレーライスの献立の日には原告代が刺激物の入らない食事を寮まで持参しなければならなかつたので、それらの交通費として週当り三往復で一三〇週分合計金二八万八〇〇円を要した。

(5) 義眼購入費

原告美穂は、右眼に義眼を入れているが、これを二年に一度は作りかえる必要があり、その代金として金八万二〇〇〇円を要する。

(6) 点字器等の購入費

原告美穂は、右盲学枚入学と同時に点字器(金五〇〇〇円)、点字板(金一万二〇〇〇円)、点字用紙(金一〇〇〇円)を購入し、そのため合計金一万八〇〇〇円を要した。

(7) 逸失利益

原告美穂は、大学進学を希望していたのであり、本件事故がなければ、大学に進学し、大学卒業時である二二歳から就労することは確実であつた。そうすると、本件事故がなかつた場合、同原告は二二歳から六七歳まで四五年間就労可能である。

そこで、昭和五八年賃金センサス第一巻第一表、産業計企業規模計「旧大、新大卒二〇〜二四歳」の統計(女子)によれば、一年間に金二〇二万三四〇〇円の収入が得られたはずである。

これに、二二歳から六七歳までの期間に対応するホフマン係数二〇・三三七六(六七歳から事故当時の一七歳を減じた五〇年に対応する係数二四・七〇一九から、二二歳から一七歳を減じた五年に対応する係数四・三六四三を減じたもの)を乗じて中間利息を控除すると、同原告の本件事故当時の逸失利益は金四一一五万一〇九九円となる。

2,023,400円×20.3376=41,151,099円(円未満切捨て)

(8) 慰謝料

原告美穂は、本件事故による受傷で右眼は眼球破裂により無眼となり、左眼も視力が〇・〇一あるかなしかの状態で、回復の見込みはなく、失明する確率が非常に高いという重大な機能障害を受けている。このため同原告は、日常の起居動作も意のままにならず、特に将来高校の理数系の教師になりたいとの希望をもつていてその可能性は充分にあつたが、本件事故によりその希望も失われ、将来の生活設計は一変してしまい、非常に暗たんたるものになつてしまつている。また、同原告は方角、遠近感覚は全くないため一人で生活することは困難であり、将来にわたり付添人を必要とする状態である。

従つて、原告美穂の精神的肉体的苦痛は明視者には到底計り知れない程大きく、これを慰謝するためには、少なくとも金三〇〇〇万円をもつて相当とする。

(9) 弁護士費用

原告美穂は、同原告訴訟代理人に対し本訴追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規定に基づく報酬を支払うことを約しており、被告が負担すべき弁護士費用としては金五〇〇万円が相当である。

(二) 原告辰夫及び同代

(1) 慰謝料

原告美穂の両親である原告辰夫及び同代は、本件事故で原告美穂の身体が害されたことにより、同原告が生命を害されたにも比肩すべき多大の精神的打撃を受けたことは明らかであり、右両原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには各金五〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用

原告辰夫及び同代は、同原告ら訴訟代理人に対し本訴追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規定に基づく報酬を支払うことを約しており、被告が負担すべき弁護士費用としては、各金五〇万円をもつて相当とする。

(三) 原告昇平

(1) 入院雑費

原告昇平は、本件事故による傷害の治療のため、昭和五四年五月一三日から同年九月二八日まで一二九日間九大附属病院において入院加療を受けたが、その間の入院雑費は、一日につき金一〇〇〇円が相当であるので合計金一二万九〇〇〇円となる。

(2) 付添看護費

原告昇平の右入院期間中原告美代子が付添看護を続け、その間の費用は、一日につき金二八〇〇円が相当であるので合計金三六万一二〇〇円となる。

(3) 付添看護のための交通費

原告健志は同昇平の入院後一〇〇日間は、原告美代子一人ではとても看護の手が回らなかつたため、毎日看護のため病院に通わざるを得ず、同健志のそのための交通費として一日当り金六六〇円で合計金六万六〇〇〇円を要した。

(4) 九大附属病院通院交通費等

原告昇平は、九大附属病院退院後昭和五六年三月まで約三日に一回の割合で一六〇回同病院眼科、義眼研究所へ通院したが、それに要した交通費は一往復金六六〇円で合計金一〇万五六〇〇円である。

また、同原告は、昭和五四年一一月より昭和五六年二月まで歩行、日常生活、点字等の訓練を受けるため、福岡市立福祉センターに入学し一九二日間通学したが、それに要した交通費は一往復金六四〇円で一九二日間合計金一二万二八八〇円である。

(5) 点字器購入費 金一万八〇〇〇円

(6) 漢方薬購入費 金二六万八〇〇〇円

(7) 逸失利益

原告昇平は、大学進学を希望していたものであり、本件事故がなければ、大学に進学し、大学卒業時である二二歳から就労することは確実であつた(もつとも、同原告は昭和六〇年四月に九州大学法学部に入学したから、卒業して現実に就労できるのは二七歳からとなるが、大学進学が遅れたのは本件事故による受傷のためであるから、本件事故がなかつた場合の同原告の就労開始時は二二歳とすべきである。)。

そうすると、本件事故がなかつた場合、同原告は二二歳から六七歳まで四五年間就労可能である。そこで、昭和五八年賃金センサス第一巻第一表、産業計企業規模計「旧大、新大卒、二〇〜二四歳」の統計(男子)によれば、少なくとも一年間に金二二五万七三〇〇円の収入が得られたはずである。

これに二二歳から六七歳までの期間に対応するホフマン係数二〇・三三七六(六七歳から事故当時の一七歳を減じた五〇年に対応する係数二四・七〇一九から、二二歳から一七歳を減じた五年に対応する係数四・三六四三を減じたもの)を乗じて中間利息を控除すると、同原告の本件事故当時の逸失利益は金四五九〇万八〇六四円となる。

2,257,300円×20.3376=45,908,064円(円末満切捨て)

(8) 慰謝料

原告昇平は、本件事故による受傷で、左眼は無眼球、右眼も視力ゼロで失明し、全盲になつている。その他顔面等にも重大な障害を受け、昭和五九年四月には腿の皮膚をとつて顔に移植する形成術が行われたが、未だ顔面の傷跡も消えない状態である。のみならず、同原告は、日常の起居動作も意のままにならず、細心の注意をもつてしても予期しない危難に遭遇しては負傷するという状態であり、また中学校の理科の教師になりたいという希望を持つていたが、これも変更せざるを得なかつたうえ、将来にわたり付添を必要とする。

従つて、同原告の精神的肉体的苦痛を慰謝するためには、少なくとも金三〇〇〇万円をもつて相当とする。

(9) 弁護士費用

原告昇平は、同原告訴訟代理人に対し本訴追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規定に基づく報酬を支払うことを約しており、被告が負担すべき弁護士費用としては金六五〇万円が相当である。

(四) 原告健志及び同美代子

(1) 慰謝料

原告昇平の両親である同健志及び同美代子は、本件事故で原告昇平の身体が害されたことにより、同原告が生命を害されたにも比肩すべき多大の精神的打撃を受けたことは明らかであり、右両原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには、各金五〇〇万円をもつて相当とする。

(2) 弁護士費用

原告健志及び同美代子は、同原告ら訴訟代理人に対し本訴追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規定に基づく報酬を約しており、被告が負担すべき弁護士費用としては各金五〇万円が相当である。

(五) 原告徹

(1) 入院雑費

原告徹は、本件事故による傷害の治療のため昭和五四年五月一三日から同年六月一五日まで三四日間福岡大学附属病院(以下「福大附属病院」という。)において入院加療を受けたが、その間の入院雑費は一日当り金一〇〇〇円が相当であるので合計金三万四〇〇〇円となる。

(2) 付添看護費

原告徹の右入院期間中原告瓊子が付添看護を続け、その間の費用は一日当り金三〇〇〇円が相当であるので合計金一〇万二〇〇〇円となる。

(3) 通院交通費

原告徹は、福大附属病院を退院後昭和五七年四月末まで(実通院日数四一日間)同病院眼科に通院したが、それに要した交通費は一日当り金三六〇円で合計金一万四七六〇円である。

(4) 逸失利益

原告徹の視力は、右〇・六、左〇・一であるが、右眼については、緑内障の後遺症を残しているので眼圧の上昇又は体力の消耗によりいつ失明するか知れない状態であり、左眼についても、黄班部に脈絡膜破裂による萎縮があり、視野中央部には中心暗点がある。のみならず、両眼に角膜混濁、屈折異常の後遺障害が残つている状態である。

そうすると、同原告の後遺障害等級は、少なくとも第七級に該当し、労働能力喪失割合は五六パーセントである。

同原告は、大学卒業時の二三歳から六七歳まで四四年間就労可能であるところ、昭和五三年賃金センサスによれば、産業計企業規模計新大卒男子労働者の全年令平均賃金は年額三八二万三四〇〇円である。

そして、二三歳から六七歳までの期間に対応するホフマン係数は一九・五六八三(六七歳から事故当時の一七歳を減じた五〇年に対応する係数二四・七〇一九から、二三歳から一七歳を減じた六年に対応する係数五・一三三六を減じたもの)である。

そうすると、同原告の逸失利益は金四一八九万七七六五円となる。

3,823,400円×0.56×19.5683=41,897,765円(円未満切捨て)

(5) 慰謝料

(ア) 入通院慰謝料

原告徹は本件事故による傷害により前記のとおり入通院を余儀なくされた。その間の慰謝料としては金二〇〇万円が相当である。

(イ) 後遺障害慰謝料

原告徹は、本件事故による前記後遺障害のため、希望する大学も変更せねばならず、職種選択の幅も狭くなり、将来の進路変更も余儀なくされた。しかも、今後も右障害の悪化する不安がある。

従つて、同原告の右精神的苦痛の慰謝料としては金六七〇万円が相当である。

(6) 弁護士費用

原告徹は、同原告訴訟代理人に対し本訴追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規定に基づく報酬を支払うことを約しており、被告が負担すべき弁護士費用としては金五〇〇万円が相当である。

(六) 原告治雄及び同瓊子

(1) 慰謝料

原告徹の両親である原告治雄及び同瓊子は、本件事故で原告徹の身体が害されたことにより、同原告が生命を害されたにも比肩すべき多大の精神的打撃を受けたことは明らかであり、右両原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには、各金二五〇万円をもつて相当とする。

(2) 弁護士費用

原告治雄及び同瓊子は、同原告ら訴訟代理人に対し本訴追行を委任し、福岡県弁護士会報酬規定に基づく報酬を支払うことを約しており、被告が負担すべき弁護士費用としては各金二五万円が相当である。

5  よつて、被告は、国家賠償法一条一項に基づき、原告美穂に対し金五〇二二万二八七五円、同辰夫及び同代に対し各金五五〇万円、原告昇平に対し金五九九六万八五八〇円、同健志及び同美代子に対し各金五五〇万円、並びにこれらに対する本件事故の日の翌日である昭和五四年五月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金と、原告徹に対し金五五七四万八五二五円、同治雄及び同瓊子に対し各金二七五万円、並びにこれらに対する本件事故の日である昭和五四年五月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(当事者らの地位)の事実は認める。

2  同 2(事故の発生)の事実のうち、昭和五四年五月一三日筑紫丘高校主催の文化祭において化学部により本件実験が行なわれたこと、その際原告昇平が黒色火薬、テルミット、ピクリン酸等の薬品を同校化学教室前中庭に土盛して設置された模擬火山の火口に注入したところ、これが爆発したこと、そのため原告美穂、同昇平及び同徹がいずれも原告ら主張の傷害を負つたことは認め、その余の事実は争う。

3(一)  同3(被告の責任)の前文の事実のうち、筑紫丘高校長富久亀男及び同校の化学担当教員で化学部顧問の辻教諭が被告の使用する地方公務員であることは認めるが、その余は否認する。

(二)  同3の(一)の(1)の事実のうち、本件事故当時雨模様であつたこと及び辻教諭は、小川部長に対し、最後の実験と思つて薬品の量を増やすなどしないよう注意したが、本件実験を中止させる措置をとらなかつたことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同3の(一)の(2)のうち、辻教諭は、小川部長に対し、本件実験は炎や煙が出るので校庭で実施し、かつ見物人が近寄れないように柵をつくり、消火器を用意しておくよう注意したこと、同教諭は、文化祭の四、五日前に小川部長がSとKCL3と記入している薬品購入用紙を持つてきた際、その購入を許可していること、また同教諭は、本件実験及び文化祭前日の五月一一日に行なわれた予備実験に立会つていないことは認めるが、その余は否認する。

部活動において顧問教諭に要求される職務上の注意義務の範囲は、生徒の年齢、心身の発達段階、能力、自主的な判断力、行為に対する弁識力等の諸事情を総合的に考慮の上、通常予見し得る行為に限られると解すべきところ、高等学校における文化祭は学校行事の一つとしての学芸的行事として位置づけられているが、これは生徒の主体的、自発的な活動を展開する活動であり、筑紫丘高校の文化祭の企画運営は職員によつて構成された文化祭運営委員会の下に生徒会側が組織する文化祭運営委員会によつて行なわれ、これに参加する各部毎の具体的な運営は、各部員が自主性をもつてこれに当ることになつていた。辻教諭は、昭和五四年四月下旬小川部長が文化祭における公開実験の一つとして模擬火山噴火(噴煙)実験を行なつてよいかと言つて来た際、実験の規模や方法は前年と同じにするように指示した。しかして、化学部が文化祭で行なつた公開実験は、化学実験室備付の「理科実験図解大事典―化学実験編」(全国教育図書発行)や「化学マジック」(白揚社発行)から化学部員によつて自主的に選ばれたものであり、右両書によると模擬火山噴火噴煙実験としては、塩素酸カリと白砂糖とを混ぜ合せて濃硫酸を滴下する方法や、重クロム酸アンモニウムの上に木炭の火種をのせる方法が示されており、これらは何の危険もないものである。しかるに、本件事故は、原告昇平が右両書の記載とは全く異なる黒色火薬等を大量に混ぜ合せて火口に入れたために発生したものであり、辻教諭は、原告昇平のごとき行動に出る者がいるとは到底予見できなかつた。辻教諭の化学部員に対する注意義務は、前記指導等で十分に尽くされているといべきである。

(四)  同3の(二)の事実は否認する。

(五)  同3の(三)の事実は争う。

4  同4(原告らの損害)の事実は争う。

三  抗弁(損害の填補)

本件事故による災害共済給付として、日本学校健康会(以下「健康会」という。)から原告美穂に対し、金一四七五万三五五七円(障害等級第二級、内金一〇万二五三一円が治療費分)が、原告昇平に対し、金一八五七万一三一九円(障害等級第一級、内金三三万五一五一円が治療費分)が、原告徹に対し、金七二万九六九五円(障害等級第一三級、内金一〇万二一一一円が治療費分)が、それぞれ支払われた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める

第三  証拠〈省略〉

理由

一当事者らの地位

請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二本件事故の発生

1  請求原因2の事実のうち、昭和五四年五月一三日筑紫丘高校主催の文化祭において化学部により本件実験が行なわれたこと、その際原告昇平が黒色火薬、テルミット、ピクリン酸等の薬品を同校化学教室前中庭に土盛して設置された模擬火山の火口に注入したところ、これが爆発したこと、そのため原告美穂、同昇平及び同徹がいずれも原告ら主張の傷害を負つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実と、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

本件実験は、前年度にも模擬火山噴火噴煙実験を行なつた経験のある原告昇平が責任者となり、これに協力して化学部員である訴外前田健、原告徹、訴外中村竜三、同平野剛及び同末石らが右実験のために必要な薬品の調合等に当つたこと、原告昇平らが本件実験のために薬品を調合して作つたものは、黒色火薬(炭素、硫黄、硝酸カリウムの二対一対七の割合による混合物)、テルミット(酸化第二鉄、アルミニウム粉末の混合物)、アルミニウム粉末と硝酸カリウム、鉄粉と硝酸カリウム、亜鉛粉末と硝酸カリウムの各一対二の割合による混合物、ピクリン酸と硝酸カリウムの一対一の割合による混合物であるが、本件実験に際しては、硝酸カリウムの代わりに、塩素酸カリウム五〇〇ccを酸化剤として用い、黒色火薬八〇〇cc、七〇〇グラムを使用したこと、そして、五月一三日午後三時すぎ頃より本件実験にとりかかつたが、化学教室前中庭に土盛して設置された模擬火山(直径三メートル、高さ一メートル二・三〇センチ位の富士山型で、火口は直径約二〇センチメートル、深さ約二五センチメートルの円筒型)の火口がガラス板の蓋を取つたため、雨で湿つてしまつたので、原告昇平は、まず石油エーテルを燃やして、火口の土を乾かしたが、今度は熱しすぎたため、ドライアイスを入れ、二分間位冷やした後に取り出し、その後、前記黒色火薬を二〇〇ないし三〇〇cc入れ、次いでテルミット、ピクリン酸(ピクリン酸は約一〇〇cc)等を注入している際中に模擬火山が爆発したこと、右爆発により、原告昇平や本件実験現場付近にいた原告美穂や同徹らは爆風で吹き飛ばされ、そのため原告美穂は右眼無眼球、左眼後極部網脈絡膜萎縮、隅角解離の傷害を、原告昇平は、顔面骨折、頚部火傷、左前腕・上腕爆傷、右眼強角膜裂傷、左眼無眼球傷の傷害を、原告徹は、顔面第Ⅱ度火傷、左大腿挫創、両眼角膜結膜異物、角膜結膜腐蝕、前房出血、隅角離断、左眼脈絡膜破裂、右眼緑内障の傷害を負つたこと、以上の事実が認められる。

三本件事故の原因

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

塩素酸カリウムは強酸化性物質であり、加熱や衝撃等により容易に酸素を発生するので、しばしば発火、爆発を引き起こすことから、塩素酸カリウムによる実験を行うに当つては細心の注意が必要とされている。ことに、黒色火薬の成分として塩素酸カリウムを硝酸カリウムの代りに酸化剤として用いた場合には爆発速度が極めて大となり、衝撃波を伴う爆轟を起こして付近の物体を破壊してしまい、ゆつくり燃焼させることは不可能である。そして、このような塩素酸カリウムの危険性は、理科教育に携わる者の間では広く知られているところである。

しかるに、原告河野が、本来模擬火山噴火実験として比較的安全な重クロム酸アンモニウムの熱分解を行うべきところを、より危険な黒色火薬と高温状態を生じるテルミット生成物、更には危険な爆発性物質であるピクリン酸まで含む多量の混合物の発火、爆発反応を利用したことと、しかも、これら危険物質混合物に引火性が高い石油エーテルを注いで点火させたことが本件事故の原因であると認められる。

四被告の責任

1  本件部活動に関する辻教諭の注意義務

請求原因3の前文の事実のうち、辻教諭が被告の使用する地方公務員であり、筑紫丘高校の化学担当教員で化学部顧問であつたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、化学部の活動は、昭和五三年八月三〇日文部省告示第一六三号により改正された高等学校学習指導要領の第一章第四款三にいう特別活動としての必修のクラブ活動ではなく、課外の部活動であるが、同時に右指導要領の第三章第三、三、(五)において、学校が右特別活動との関連を十分考慮して活発に実施されるようにすべきものと規定されており、また右部活動は、筑紫丘高校の管理下で実施されていたことが認められること、そして、部活動としての化学部の活動は、特別教育活動に密接に関連するものとして、同校において十分な検討と配慮の下に適切な指導をなすべきものとされていることからすれば、化学部の活動は筑紫丘高校の特別教育活動の一環をなすものと認めるのが相当である。そうすると、化学部顧問である辻教諭には化学部の活動に関し、化学部の活動として当然に予定している化学実験に内在する危険性に鑑み、その危険から化学部員である生徒の生命、身体の安全を保護すべき職務上の注意義務があるというべきである。

ところで、本件文化祭は、前記指導要領の第一章第四款五にいう特別活動としての学校行事(学芸的行事)であり、右指導要領の第三章第三、三、(三)によれば、学校行事においては、個々の行事の特質に応じ、生徒の自発的な活動を助長すべきものと規定されているが、高等学校の生徒は、必ずしも成人と同様の判断能力を有するとはいい難く、文化祭となれば、多数来集する参観者の感興を呼び起こすべく、より高度で、それだけに危険の伴う化学実験を行なうことも十分予想されるところであることからすれば、これによつて顧問教諭の前記注意義務が軽減されるものではない。

そして、本件のように部活動として化学実験を行う場合においても、火薬類取締法二三条二項、二条一項二号の規定は当然に適用され、化学部顧問教諭には化学部員に火薬類を取扱わせないようにして化学部員の生命、身体の安全を保護すべき職務上の注意義務があつたというべきである。

2  辻教諭の過失

〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  辻教諭は、昭和五三年四月一日に化学担当教諭として筑紫丘高校に赴任してきた。当時の化学部の顧問教諭は平野兼男教諭(以下「平野教諭」という。)であつたが、昭和五四年四月一日から辻教諭が化学部顧問に就任した。

(二)  本件事故発生の前年である昭和五三年五月にも化学部は、文化祭で模擬火山実験を行なつたが、その担当は当時の化学部長である原告昇平を中心として、原告徹及び訴外前田健であつた。同実験は化学部実験室内で行なわれたが、その規模、方法は長さ約二メートル、幅約一メートル、厚さ二・三センチメートルの板の上に粘土で直径約一・八メートル、高さ四・五〇センチメートルの模擬火山を作り、火口として直径二〇センチメートル、深さ一五・六センチメートルの穴をあけ、底に鉄製シャーレを二個入れるというものであり、その際用いられた薬品は、炭素、硫黄、硝酸カリウム、アルミニウム粉末、鉄粉、塩素酸カリウム、酸化第二鉄等の混合物約三〇〇ccであり、右薬品を三回に分けて実験を行なつたが、同実験は、火花が火口から約一メートルに近く立ち上がり、成功した。

(三)  昭和五三年の文化祭後本件文化祭までの間、原告昇平、同徹、訴外前田健、同平野剛、同末石、同福澄孝博、同中村竜三らの化学部員は部活動の際、酸化剤として硝酸マグネシウム或いは硝酸カリウムを用いて黒色火薬を調合し、これを燃焼させたり、各種金属粉を混合させて炎色反応をみる等の実験を繰り返していた。

(四)  前記のとおり、昭和五四年四月一日から化学部顧問教諭が平野教諭から辻教諭に代わると、辻教諭は、同年四月一〇日に化学部実験室に化学部員を集め、ガス、電気を慎重に取り扱い、化学実験室の戸締りや後片付けをきちんとするよう注意したうえ、その注意事項を紙に書いて貼り出した。

また、辻教諭は、化学実験室にある化学部の薬品戸棚にある薬品のうち、劇薬、毒薬、及び引火しやすい薬品等を学校の薬品室に移させ、これらを化学部で使用するとき及び学校の薬品を化学部が借用する際は、化学部員をして薬品貸出簿に記載させて、辻教諭が閲覧したうえ、同教諭又は同教諭の指示を受けた実習助手訴外中村操が交付するようにした。

更に、化学部が有している薬品について、昭和五四年四月下旬頃化学部長である筑紫丘高校二年生小川博生に対し、薬品目録を作成して在庫を明確にするよう命じ、また、化学部は、誠教社及び徳重薬品工業から、辻教諭を通じるほか、化学部の会計係が直接注文して薬品を購入していたが、この場合にも、辻教諭の許可を得るよう指導した。

しかし、化学部が使用を申し出た薬品については、平野教諭の場合は、塩素酸カリウム等についてはその危険性及びその使用方法について注意をしたうえ、必要最少限の量しか交付しなかつたのに対し、辻教諭になると、前記手続を経さえすれば、特に使用方法について注意されることなく、五〇〇グラム入りの瓶ごとこれが交付されるようになつた。

(五)  昭和五四年度の筑紫丘高校の文化祭は、同年五月一二日(土曜日)及び一三日(日曜日)の両日に亘つて行なわれることとなり、辻教諭は、小川部長に対し、化学部の行なう展示物、公開実験で危険なものは予め同教諭の許可を得るように指示していたところ、化学部は、同年四月二〇日過ぎまでに右展示物及び公開実験を別表(一)(二)のとおり決定し、小川部長は、四月末頃これを辻教諭に報告した。右展示物及び公開実験は、化学実験室備付の「理科実験図解大事典―化学実験編」(全国教育図書発行、以下「理科実験図解大事典」という。)及び「化学マジック」(白揚社発行)から化学部員によつて、自主的に選択されたものであり、化学実験室内の黒板には、右展示物及び公開実験名、担当者、使用薬品(化学式)、準備の進度が文化祭直前まで、備忘的に書き込まれたり、或いは不要となれば消去されたりしていた。辻教諭は、放課後化学実験室での化学部の活動を見廻つていたが、右記載内容に気付いたか否かは必ずしも明らかでない。

(六)  右のようにして、模擬火山噴火噴煙実験も文化祭での公開実験の一つとして決定されたが、その責任者には、原告昇平がなり、他に原告徹、訴外前田健、同平野剛、同福澄孝博、同末石、同末増由紀子及び原告美穂が担当者であつた。

なお、化学マジックには、火山実験として重クロム酸アンモニウムの粉末に点火する方法が、また理科実験図解大事典には、噴煙実験として右同様の方法が、噴火実験として塩素酸カリウムの粉末と白砂糖を混ぜたものに濃硫酸を滴下する方法が記載されているが、化学部では前年度と同様、火薬を用いて右実験を行なうことが当然に予定されていたので、前年度にも右実験を行なつた経験のある原告昇平、同徹及び訴外前田健らが担当者となつたものである。

(七)  しかして、辻教諭は、前記のように、四月末頃小川部長が文化祭で行なう展示物及び公開実験を報告してきた際、模擬火山噴火噴煙実験については、「前年と同じようにやりなさい」と注意し、また同実験は炎や煙が出るので、屋外で行ない、実験の際には周囲に柵をめぐらし、見物人が近づけないようにするとともに、消火器を備えておくよう指示した。

(八)  また、辻教諭は、小川部長に対し辻教諭の立会の下で予備実験をするよう指示していたところ、原告昇平、同徹、訴外前田健らは五月一〇日午後七時半頃、炭素、硝酸カリウム、硫黄を混合した黒色火薬、鉄粉合計五〇ないし一〇〇ccを用い、予備実験を行なつたが、同時刻頃には辻教諭はすでに帰宅していたため、これに立会うことができなかつた。

(九)  文化祭が差迫つてきた頃(三、四日前頃)、模擬火山実験に使用する薬品(塩素酸カリウム、鉄粉、硫黄、硫酸)が不足したが、前記正規の方法で誠教社、徳重薬品工業から購入していたのでは、間に合わないため、化学部員の祖母が営む薬局から購入することとし、小川部長は薬品購入用紙二枚のうち、一枚に「KCIO3」(塩素酸カリウム)「S」(硫黄)と記載し、もう一枚は白紙で辻教諭に右許可を求めた。辻教諭は右薬品を公開実験に使うのかと問い質しただけで特にその使用方法等について注意することなく、右二枚の用紙に捺印して購入の許可をした。

こうして、化学部員は、五〇〇グラム瓶入りの塩素酸カリウムを購入してこれを入手した。

(一〇)  そして、原告昇平らは、模擬火山実験用の薬品として、黒色火薬約二リットル、亜鉛と硝酸カリウム、アルミニウムと硝酸カリウム、鉄と硝酸カリウムの混合物をそれぞれ約三〇〇cc、ピクリン酸と硝酸カリウムの混合物約二〇〇cc、テルミット約五〇〇ccを調合して右実験に備えていた。

(一一)  化学部は、模擬火山実験を文化祭第一日目の五月一二日に二回、第二日目の五月一三日に三回行う予定にしていたところ、第一日目の五月一二日には、原告昇平らは、午後二時頃より、炭素、硫黄、硝酸カリウムを混合した黒色火薬、テルミット、ピクリン酸合計約三〇〇ccを火口に入れ、石油エーテルを滴下する方法で模擬火山噴火実験を行ない、火花が約二〇センチメートル、白煙が二・三メートル吹き上がり、五ないし一〇秒間燃焼して終わつたが、同日は、その後右実験を行なわなかつた。

なお、右実験には辻教諭は立会わなかつたが、その終了後、小川部長は、同教諭に会つた際、「何も危険なことはなかつた」旨告げた。

(一二)  化学部は、五月一二日の文化祭第一日目が終了した後の午後五時ころから、化学実験室に化学部員全員が集まつて反省会を開いたが、その際原告昇平が模擬火山実験について、前記予備実験のときと異なり昼間の実験であつたため非常にみすぼらしく感じられた旨の報告をしたので、翌日の実験は残りの薬品を全部使い、回数も一回だけにして見栄えのよいものにすることが決定された。

(一三)  翌一三日は雨模様であつたが、午前八時半ころ辻教諭は、小川部長に会つた際、「今日も模擬火山をやつてもよいが、最後だと思つて薬品の量を増やさないように」と注意したところ、小川部長は「薬品を昨日使つているので量を増やしたくても増やせない」と答えた。

(一四)  文化祭第二日目の五月一三日原告昇平は、化学部員の訴外末増由紀子から前記入手にかかる五〇〇グラム瓶入りの塩素酸カリウムを受取つたことから、硝酸カリウムの代りに右塩素酸カリウムで黒色火薬を調合し、本件実験に用いることを思い付き、その調合を行なつた。

(一五) 右薬品の調合には、原告美穂ら一〇数名の化学部員が参加したが、原告徹はこれに参加していない。その後原告徹及び同美穂ら化学部員は、右薬品を模擬火山の火口に注入する役目であつた原告昇平に手渡していたが、その際、前記二2のとおり本件事故が発生したものである。

なお、小川部長は、本件事故の際、辻教諭の前記指示に基づき、消火器を用意し、模擬火山実験の開始を報らせる校内放送を依頼した後、見物人の整理をしていたものであり、また、辻教諭は右事故の際、職員室にいて、これに立会つていなかつたものである。

以上の事実が認められる。

しかして、前記認定事実、ことに塩素酸カリウムは、加熱や衝撃等により容易に爆発する危険な物質であり、その危険性は理科教育に携わる者の間では広く知られているものであるところ、辻教諭は、文化祭が差迫つてきた頃、小川部長から塩素酸カリウムと硫黄の購入の許可方を求められた際、右両物質が塩素酸カリ爆薬の不可欠な成分であり(同爆薬の構成物質のうち、炭素については容易に入手可能である)、しかも硫黄は化学部が行なうことになつていた展示物、公開実験のいずれにも使用が予定されていなかつたことからすれば、理科教育に携わる者として右両物質が塩素酸カリウム爆薬の製造に使用されることを予見しえたというべきであり、かつまた塩素酸カリウムを使用する公開実験は、模擬火山噴火実験のほか、テルミット反応、水中で燃える炎、魔法の棒があるが、これらはいずれも小規模な実験であり、多量の塩素酸カリウムを渡せば、そのうちの相当量が模擬火山噴火実験に使用される危険性があることも認識しえたと考えられ、にもかかわらず、同教諭は、右両物質の使用目的、量、方法等を確かめることもせず、安易にその購入方を許可し、原告昇平らをして多量の塩素酸カリ爆薬の製造及びその使用を可能にさせ、ついには、本件事故を発生するに至らしめ、もつて化学部員の生命、身体の安全を保護すべき職務上の注意義務を怠つたものというべきである。

3 しかして、本件事故が福岡県立筑紫丘高校の特別教育活動の一環をなす化学部の部活動の際に生じたものであること、辻教諭は当時同高校の化学部顧問教諭であり、本件事故につき同教諭に過失があつたことは前記認定のとおりである。

そうすると、被告は、富久校長の過失の有無について判断するまでもなく、国賠法一条に基づき原告らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。

五原告らの損害

1  原告美穂について

(一)  入院雑費

〈証拠〉を総合すれば、同原告は、本件事故による受傷の治療のため昭和五四年五月一三日から同年六月一九日まで(三八日間)九州大学附属病院皮膚科、眼科に入院したことが認められる。

そうすると、入院雑費としては一日当り金一〇〇〇円が相当と認められるから三八日間で合計金三万八〇〇〇円となる。

(二)  付添看護費

〈証拠〉によれば、原告美穂の母である原告代は同美穂の右入院期間中、付添看護をしたことが認められ、同原告の年齢、受傷の部位、程度等を考慮すれば、右付添看護もやむを得ないものと認められる。

そうすると付添看護費としては一日当り金二八〇〇円が相当と認められるから、三八日間で合計金一〇万六四〇〇円となる。

(三)  付添看護のための交通費

原告美穂の父である原告辰夫は付添看護のための交通費として、一日当り片道金七二〇円として一五日間合計金二万一六〇〇円を要した旨主張するが、前記のとおり原告美穂の入院期間中、同代が付添看護をしていたのであるから、右付添看護のための交通費をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(四)  盲学校通学交通費等

〈証拠〉によれば、同原告は、本件事故により後記後遺症を負つたため、昭和五四年九月一日より福岡県立福岡盲学校に転校し、同校の寮に入寮したことが認められる。

しかしながら、同原告が寮から帰宅するための交通費、その際の父母の付添交通費及び原告代が寮に食事を運ぶための交通費については、本件全証拠によるも、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(五)  義眼購入費

また、前記認定事実と、〈証拠〉を総合すれば、同原告は、本件事故により右眼が無眼球となり現在義眼を使用しているが、右義眼は二年に一度作りかえる必要のあることが認められる。

そうすると、義眼購入費として金八万二〇〇〇円を要するものと認められる。

(六)  点字器等の購入費

右各証拠によれば、原告美穂は本件事故による受傷のため、右眼は無眼球となり、左眼は、後極部網脈絡膜萎縮、隅角解離の診断を受け、視力が裸眼で〇・〇一(矯正視力〇・〇四)で、しかも中心視力が零であることから読み書きのため点字器、点字板及び点字用紙が必要であり、その購入費用として合計一万八〇〇〇円を要したことが認められる。

(七)  逸失利益

原告美穂は、前記のとおり、本件事故により右眼が失明し、左眼は後極部網脈絡膜萎縮、隅角解離の傷害を受け、その視力が裸眼で〇・〇一(但し、その視野は中心暗点約二〇度のため中心視力零)であるところ、右後遺障害は、後遺障害等級第二級一号に該当し、労働能力喪失率は一〇〇パーセントと認めるのが相当である。そして、原告美穂本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故当時一六歳(高校二年)で、大学進学を希望していたものであり、その可能性は、十分あつたと認められるので、同人は本件事故がなければ、大学卒業時の二二歳から六七歳まで四五年間就労可能であつたというべきである。

しかして、昭和五四年度の賃金センサス産業計、企業規模計、女子労働者旧大・新大卒、二〇ないし二四歳によれば、原告美穂は次の計算式により、一年間に金一六五万一二〇〇円の収入を得られるものと認められる(この事実は当裁判所に顕著である)。

11万9600円×12+21万6000円=165万1200円

そこで、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、同原告の逸失利益の本件事故当時の現価は、次の計算式のとおり、金二一九〇万〇三六〇円となる。165万1200円×1.00×(18.3389−5.0756)=2190万0360円(円未満切捨)

(八)  慰謝料

前記認定事実と、〈証拠〉を総合すれば、同原告は、本件事故による受傷の治療のため、昭和五四年五月一三日から同年六月一九日まで九州大学附属病院に入院を余儀なくされたほか、退院後も治癒と診断された昭和五九年五月二九日までの間、主治医の上原雅夫医師の転勤に伴い、同病院から佐賀医大附属病院、飯塚病院にそれぞれ通院したこと、しかして、同原告は前記のとおりの後遺障害を負い、右眼は失明し、左眼も現在裸眼で〇・〇一あるものの、将来眼圧の上昇等により失明のおそれもあり、生活全般に亘つて不自由さを強いられていること、同原告は将来高校の理数系の教諭になることを希望していたが、その希望をかなえることは到底不可能となり、将来の生活に強い不安感を抱いていること等本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、原告美穂の精神的苦痛に対する慰謝料としては金一八〇〇万円が相当である。

(九)  過失相殺

前記四2に認定した事実によれば、原告美穂は、模擬火山実験には黒色火薬が使用されるものであることを知つていたと認められ、五月一二日の反省会の際、原告昇平から本件実験には残りの薬品を全部用いることが提案されたが、原告美穂は、これに対し、何ら反対の意思表示もしなかつたばかりか、翌一三日には薬品の調合にも参加し、本件実験に際してこれを原告昇平に手渡していたことが認められる。

しかして、原告美穂としても、黒色火薬は危険なものであり、これを本件実験に使用すべきでないことを認識しえたというべきであり、それにもかかわらず、原告昇平らの言動に迎合してこれを抑止しなかつたのであるから、本件事故発生について同原告にも過失があつたとみるべきであり、斟酌すべき過失割合は二〇パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、前記原告美穂の被つた損害の認定額合計は金四〇一四万四七六〇円であるから、これから二〇パーセントを控除すると、金三二一一万五八〇八円となる。

(一〇)  損害の填補

本件事故による災害共済給付として、健康会から原告美穂に対し金一四七五万三五五七円が給付され、この内金一〇万二五三一円が治療費分であることは同原告と被告間に争いがない。

ところで、原告美穂は、本訴において、治療費について損害賠償請求していないのであるから、右填補額から、治療費分を差引いた金一四六五万一〇二六円を本件損害の填補として前記認定損害額から控除するのが相当である。

(一一)  弁護士費用

原告美穂が本訴の遂行を同原告代理人弁護士に委任したことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、その費用として金二〇〇万円を被告に負担させるのが相当である。

(一二)  そうすると、原告美穂の本訴請求は、前記(一)、(二)、(五)ないし(八)の認定損害額合計金四〇一四万四七六〇円から(九)の過失相殺による二〇パーセントを控除した残額金三二一一万五八〇八円より(一〇)の損害填補額金一四六五万一〇二六円を差引いた金一七四六万四七八二円と(一一)の弁護士費用認定額金二〇〇万円の合計金一九四六万四七八二円及びこれに対する不法行為後である昭和五四年五月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

2  原告辰夫及び同代について

(一)  慰謝料

原告美穂の両親である原告辰夫及び同代は、原告美穂の身体が害されたことにより、同原告が生命を害されたにも比肩すべき精神的苦痛を受けた旨主張するところ、〈証拠〉によれば、右原告両名が多大の精神的苦痛を受けたことは認められるが、これをもつてしても原告美穂が生命を害されたにも比肩すべき程の精神的苦痛を受けたと認めることはできない。従つて右原告両名が自己の権利として慰謝料を請求することはできないと解するのが相当である。

(二)  弁護士費用

前記のとおり、原告辰夫及び同代は自己の権利として慰謝料を請求することができず、従つて弁護士費用も請求することができないと解するのが相当である。

3  原告昇平について

(一)  入院雑費

〈証拠〉を総合すれば、同原告は、本件事故による受傷の治療のため昭和五四年五月一三日から同年九月二八日まで(一三九日間)九州大学附属病院眼科、皮膚科等に入院したことが認められる。

そうすると、入院雑費としては、一日当り金一〇〇〇円が相当と認められるから、一三九日間で合計金一三万九〇〇〇円となる。

(二)  付添看護費

〈証拠〉によれば、原告昇平の母である原告美代子が、同昇平の右入院期間中、付添看護をしたことが認められ、前記1(二)の原告美穂の場合と同様右付添看護もやむをえないものと認められる。

そうすると、付添看護費としては一日当り金二八〇〇円が相当と認められるから、一三九日間で合計金三八万九二〇〇円となる。

(三)  付添看護のための交通費

原告昇平の父である原告健志は、付添看護のための交通費として、一日当り金六六〇円として一〇〇日間合計金六万六〇〇〇円を要した旨主張するが、本件全証拠によるも、右付添看護のための交通費をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(四)  九大附属病院通院交通費等

〈証拠〉を総合すれば、同原告は九州大学附属病院を退院後も、前記傷害が治癒したものと診断された昭和五九年七月一〇日まで、合計一六〇回同病院に通院したことが認められ、そのための通院交通費として一往復金六六〇円で金一〇万五六〇〇円を要したことが認められる。

また、原告昇平は、本件事故により後記後遺障害を負つたため、昭和五四年一一月一二日から昭和五六年三月まで一九二日間福岡県立身心障害福祉センターに通学したことが認められ、そのための交通費として一往復金六四〇円で合計金一二万二八八〇円を要したことが認められる。

(五)  点字購入費

右各証拠によれば、原告昇平は、点字の訓練のため、点字器を購入したが、そのために金一万八〇〇〇円を要したことが認められる。

(六)  漢方薬購入費

漢方薬購入費については、本件全証拠によるも、原告昇平の治療に必要のあるものと認めるに足りない。

(七)  逸失利益

原告昇平は、前記のとおり、本件事故により左眼は無眼球となり、右眼は強角膜裂傷の傷害を受け、両眼とも失明したものであるところ、右傷害は後遺障害第一級第一号に該当し、労働能力喪失率は一〇〇パーセントと認めるのが相当である。そして、〈証拠〉によれば、同原告は、本件事故当時一七歳(高校三年)であり、大学進学を希望していたところ、同原告は昭和六〇年四月に至り、九州大学に入学したことが認められるが、弁論の全趣旨によれば、同原告は、本件事故がなければ、右希望通り大学進学を果たし、大学卒業時の二二歳から六七歳まで四五年間就労可能であつたというべきである。

しかして、昭和五四年度の賃金センサス産業計、企業規模計、男子労働者旧大・新大卒、二〇歳ないし二四歳によれば、原告昇平は、次の計算式により、一年間に金一八二万二二〇〇円の収入を得られるものと認められる(この事実は当裁判所に顕著である)。

13万4500円×12+20万8200円=182万2200円

そこで、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、同原告の逸失利益の本件事故当時の現価は、次の計算式のとおり、金二五三七万六八六八円となる。

182万2200円×1.00×(18.2559−4.3294)=2537万6868円(円未満切捨)

(八)  慰謝料

前記認定事実と、〈証拠〉を総合すれば、同原告は、前記のとおり、本件事故による受傷の治療のため、昭和五四年五月一三日から同年九月二八日まで九州大学附属病院に入院を余儀なくされ、また退院後も治癒と診断された昭和五九年七月一〇日までの間一六〇回同病院に通院したこと、しかして、同原告は、前記のとおり、後遺障害第一級第一号(両眼失明)に該当する後遺障害を負つたこと、そのため同原告は将来の生活設計の変更を余儀なくされ、前途に強い不安感を抱いていること等本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、原告昇平の精神的苦痛に対する慰謝料としては金二〇〇〇万円が相当である。

(九)  過失相殺

前記四2に認定した事実によれば、原告昇平は、本件模擬火山実験の責任者であり、五月一二日の反省会に際しては本件実験には残りの薬品を全部用いることを提案し、また本件実験計画の立案から黒色火薬を含む多種かつ多量の薬品の調合、右実験の実施に至るまで終始主導的役割を果していたことが認められる。

しかして、原告昇平としては、右薬品の危険性に鑑み、これを本件実験に使用すべきでないことを十分認識しえたというべきであり、それにもかかわらず、率先して右実験の遂行に当つたのであるから、本件事故の発生について同原告にも過失があつたとみるべきであり、斟酌すべき過失割合は六〇パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、前記原告昇平の被つた損害の認定額合計は金四六一五万一五四八円であるから、これから六〇パーセントを控除すると金一八四六万〇六一九円となる。

(一〇)  損害の填補

本件事故による災害共済給付として、健康会から原告昇平に対し、金一八五七万一三一九円が給付され、この内金三三万五一五一円が治療費分であることは同原告と被告間に争いがない。

ところで、原告昇平は、本訴において、治療費について損害賠償請求していないのであるから、右填補額から治療費分を差引いた金一八二三万六一六八円を本件損害の填補として前記認定損害額から控除するのが相当である。

(一一)  弁護士費用

第二事件原告河野昇平が本訴の遂行を同原告代理人に委任したことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、その費用として金五万円を被告に負担させるのが相当である。

(一二)  そうすると、原告昇平の本訴請求は、前記(一)、(二)、(四)、(五)、(七)、(八)の認定損害額合計金四六一五万一五四八円から(九)の過失相殺による六〇パーセントを控除した残額金一八四六万〇六一九円より(一〇)の損害填補額金一八二三万六一六八円を差引いた金二二万四四五一円と(十一)の弁護士費用認定額金五万円の合計金二七万四四五一円及びこれに対する不法行為後である昭和五四年五月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

4  原告健志及び同美代子について

原告昇平の両親である右原告両名は、自己の権利として慰謝料及び弁護士費用を請求するが、前記2の原告辰夫及び同代の場合と同様これを請求することはできないと解するのが相当である。

5  原告徹について

(一)  入院雑費

〈証拠〉を総合すれば、同原告は、本件事故による受傷の治療のため昭和五四年五月一三日から同年六月一五日までの間(三四日間)福岡大学附属病院に入院したことが認められる。

そうすると、入院雑費としては一日当り金一〇〇〇円が相当と認められるから三四日間で合計金三万四〇〇〇円となる。

(二)  付添看護費

〈証拠〉によれば、原告徹の母である原告瓊子が同徹の右入院期間中、付添看護をしたことが認められ、前記1(二)の原告美穂の場合と同様右付添看護もやむを得ないものと認められる。

そうすると、付添看護費としては一日当り金二八〇〇円が相当と認められるから、三四日間で合計金九万五二〇〇円となる。

(三)  通院交通費

〈証拠〉を総合すれば、同原告は福岡大学病院を退院後、本件事故による受傷の治療のため、昭和五七年四月末日まで(実通院日数四一日間)同病院眼科に通院し、その交通費として一日当り金三六〇円で合計金一万四七六〇円を要したことが認められる。

(四)  逸失利益

前記認定事実と、〈証拠〉を総合すれば、原告徹は、前記のとおり本件事故により、両眼隅角離断・角膜混濁、右眼緑内障、左眼脈絡膜破裂、外傷性散瞳の後遺障害が残り、昭和五九年一月二三日症状が固定したが、その時点で左眼の視力が〇・三、右眼視力が〇・七であつたことが認められ、右後遺障害は後遺障害等級第一三級一号に該当し、労働能力喪失率は九パーセントと認めるのが相当である。

なお、原告徹は、昭和六〇年九月二〇日に裸眼視力が、右眼が〇・六、左眼〇・一と診断されたことが認められるが、本件全証拠によるも、右視力の低下と本件事故との相当因果関係を認めるに足りない。

そして、〈証拠〉によれば、同原告は本件事故当時一七歳(高校二年)で、一年浪人して昭和五六年四月に西南学院大学に入学したことが認められるので、大学卒業時の二三歳から六七歳までの四四年間就労可能であつたというべきである。

しかして、昭和五四年度の賃金センサス産業計、企業規模計、男子労働者旧大・新大卒二〇歳ないし二四歳によれば、原告徹は、前記3(七)の原告昇平の場合と同様一年間に金一八二万二二〇〇円の収入を得られるものと認められる。

そこで、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、同原告の逸失利益の本件事故当時の現価は、次の計算式のとおり二一六万一五四二円となる。

182万2200×0.09×(18.2559−5.0756)=216万1542円(円未満切捨)

(五)  慰謝料

(1) 入通院慰謝料

前記のとおり、原告徹は、本件事故による受傷の治療のため、福岡大学附属病院に昭和五四年五月一三日から同年六月一五日まで(三四日間)入院し、退院後昭和五七年四月末まで(実通院日数四一日間)通院したことが認められる。

そうすると、右入通院についての慰謝料としては金一二八万円が相当である。

(2) 後遺障害慰謝料

原告徹が受けた前記後遺障害についての慰謝料としては金一〇〇万円が相当である。

(六)  過失相殺

前記四2に認定した事実によれば、原告徹は、本件事故の前年の文化祭においても、黒色火薬を用いた模擬火山噴火実験に参加し、その後も黒色火薬の調合、燃焼実験を繰り返しており、火薬取扱について経験を有していたことから、原告昇平の下で、本件模擬火山実験の担当者として本件実験の遂行に当つていたことが認められる。

しかして、原告徹としては、本件実験に前記薬品を使用すべきでないことを十分認識しえたと考えられるにもかかわらず、右実験の遂行に当つたのであるから、同原告にも本件事故の発生について過失があつたとみるべきであり、斟酌すべき過失割合は四〇パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、前記原告徹の被つた損害の認定額合計は金四五八万五五〇二円であるから、これから四〇パーセントを控除すると金二七五万一三〇一円となる。

(七)  損害の填補

本件事故による災害共済給付として、健康会から原告徹に対し、金七二万九六九五円が給付され、この内金一〇万二一一一円が治療費分であることは同原告と被告間に争いがない。

ところで、原告徹は、本訴において、治療費について損害賠償請求していないのであるから、右填補額から治療費分を差引いた金六二万七五八四円を本件損害の填補として前記認定損害額から控除するのが相当である。

(八)  弁護士費用

第三事件原告安倍徹が本訴の遂行を同原告代理人らに委任したことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、この費用として金二〇万円を被告に負担させるのが相当である。

(九)  そうすると、原告徹の本訴請求は、前記(一)ないし(五)の認定損害額合計金四五八万五五〇二円から(六)の過失相殺による四〇パーセントを控除した残額金二七五万一三〇一円より(七)の損害填補額金六二万七五八四円を差引いた金二一二万三七一七円と(八)の弁護士費用認定額金二〇万円の合計二三二万三七一七円及びこれに対する不法行為時である昭和五四年五月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

6  原告治雄及び瓊子について

原告徹の両親である右原告両名は、自己の権利として慰謝料及び弁護士費用を請求するが、前記2の原告辰夫及び同代の場合と同様これを請求することはできないと解するのが相当である。

六結 論

以上の事実によれば、原告らの本訴請求は、主文の限度でそれぞれ理由があるのでこれを認容し、その余の請求はいずれも失当であるのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官吉田 肇 裁判長裁判官橋本勝利、裁判官佐藤真弘は、転任につき、署名捺印することができない。裁判官吉田 肇)

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